【本の感想】「2020年の恋人たち」

ーーーバルセロナ

 

 

新婚旅行で行って、熱さと適当さとぐちゃぐちゃさに感動した。

ヨーロッパの都市は、良くも悪くも新しいのに古くて、人間が人間であるための匂いや触覚、感覚や直観や血なまぐささが生活の隣にあることを受け入れているように見えて、とても新鮮だった。

東アジアの諸都市はこの生臭さを生活から遠いところに置いているように感じた。

 

 

この人(ダリン)とならうまくやっていけるかも、と確信した旅でもあった。

あまりにもお互いにできることがうまく分かれすぎていて、ちょうど良く相手ができないことが自分はできるし、自分が出来ないことは相手ができることを認識できた旅でもあった。

油断したらついうっかり街角でキスしてしてしまうような愛と情熱の都市だったと思うのだけど、あそこでこの小説の主人公が孤独を感じる、ということは、やはり相性がうまく合っていないのだろう。

なんとなく結論が読める物語を読み進めながら、カラッとしたバルセロナの風の匂いを思い出した。

自分がこの街に行った時はちょうど中心街のランブラス通りで悲しいテロが起こった1月後で、帰ってきてから1月後にはカタルーニャの独立のデモが起こっていてかなりごたごたしていた時期だった。

観光で歩いている時にやけに街の建物の窓からカタルーニャの旗が掲げられているな、とちらっと思ってはいたのだが、いちおう第二外国語スペイン語をかじった端くれとして、スペインのなかでもバスク地方カタルーニャ地方は昔から歴史的地域的に折り合いが難しい面を持ち合わせているという知識が辛うじてあったので、そういったことの影響もあるのだろうな、と思っていた。

 

 

さて、本の感想に戻る。

島本理生の本は初期の頃の作品をよく読んでいて、ナラタージュあたりまでは新刊が出ると同時くらいに読んでいた読み馴染みのある作家だ。*1

彼女は歳もデビューも近い作家に、若くして芥川賞を受賞した綿矢りさ金原ひとみという瑞々しくも荒々しい感性で小説を書く2大美少女作家がいて、立ち位置が難しかったのではないかとも思うけど、安定感があって安心して読める作家だった。*2

2010年頃に自身の生活が忙しすぎたのとリアルの恋愛がしんどいけども面白すぎて、もう小説を読んで恋愛に浸るのはいいかな、となり恋愛小説はしばらくご無沙汰していた。

 

 

この作家の本を読んだのは、だから10年ぶりだ。

kindleでDLしたのはネットの雑な文章を読むのに疲れてきていたこともあって、たまには校正された楽に読めるプロの文章を読みたい、と思って目に入ってきたことだった。

まさに今現在進行形のこのコロナ禍を、リアルタイムで小説家はどう描くのかな、と興味が湧いた。

 

 

ひさしぶりに読んだ島本理生の小説は、相変わらず島本理生らしかった。

真面目なのに暗さと色気があって、変なところが頑固で、自己肯定感が低く、ひとまわりくらい上の男性と頭でっかちで歪な恋愛(時に不倫)をする主人公と、ゆがんだ愛情でひとまわり下の女に精神的にもたれかかってしまうダメな男。

そのダメな男が見た目と外ヅラは爽やかなところに、胸糞の悪さを感じるんだけど、物語としてはアリだなと思えてさらっと読めてしまう。

それと主人公の周りの話ができるサバサバした女性の関係者(友達や叔母)に、ちょっと頼りない感じの爽やかで訳ありな同世代の男友達。

だいたいいつも出てくるパターンの登場人物が登場してきて、あれこれ軽くも重くもない恋愛を繰り返す。

描き出される東京の街は少し洗練されていて、年齢を感じさせた。

舞台を千駄ヶ谷にしているにしては、あまり千駄ヶ谷感を感じなかったけど、このくらいの方が、コロナ禍中で読むにはちょうどいい。

鮮やかに街が描き出されていたら、今の東京を思うと哀しくなってしまうから。

島本理生の小説は最後が嫌いじゃないことが多くて、最後にふーんって思ってすんなり読み終われるところが悪くないな、といつも読み終わるときに思う。

 

 

 

2020年の恋人たち

2020年の恋人たち

 

 

 

*1:島本理生の本で私がいちばん好きなのは生まれる森。瑞々しくて島本作品のなかではドロドロが軽く、比較的読みやすい恋愛小説だと思う。

*2:4度芥川賞にノミネートされているが受賞しておらず、その後に直木賞を受賞している。