【本の感想】ハードワーク

銭湯&散歩友達がブースを出すと聞いていたので、先日の文フリ36にお邪魔する事にした。

諸事情でここのところ体調が全然読めなくて、行けるかいけないかも当日直前までわからなかったんだけど、なんとか電車に乗って移動するくらいはできそうだったので、午後の遅めの時間に到着した。

絶えずひっきりなしなしにお客さんのきているお友達のブースに余裕ができた瞬間を見計らって挨拶しにいくと、今日はがわさんと髙石さんもブースを出してるよ、と教えてくれた。

流通センターでやるくらいなのだからコミケのようなものだろうと予想していた初めての文フリは、予想通りコミケみたいな雰囲気だった。

コミケはわりと差し入れカルチャーがあった気がしたので事前にブースを出してる情報をチェックできていた顔見知りにコンビニで買ったミニパックのお菓子を差し入れつつ、2つ隣の島でブースを出していた髙石さんにも無事にお会いできた。

 

 

 

髙石さんに初めてお会いしたのは去年の秋のこと。

とあるイベントで、数少ないお友達を介して初めて挨拶した。

いつも髙石さんの文章をさうなとや週刊SPA!の記事やWebで読んでいたから、いざ本人とお会いするととても緊張する。

わーっと話すタイプのコミュニケーションがあまり得意ではないので(どちらかというと沈黙したり、止まりながらゆっくり話すことが多い)、大丈夫かな、と思っていたけど、気さくにいろんなサウナのエピソードを話してくださって、くすくす笑ったのを覚えている。*1

もうWebでは書かないんですか?と聞いたら、現状少々トラブルが発生していることと、これについてはそのうち文章にして紙の本にします*2、とおっしゃっていたのが印象に残っていた。

その本が、今回出たのだった。

赤と黄色のスプレーを模した装丁は、その時見せてもらったスプレーの落書き写真を彷彿とさせた。

写真は結構ショッキングなモノで、その時の髙石さんの心労は計り知れず、痛ましかった。

 

 

 

ネタバレになるので詳細はかい摘むくらいにしておいて、本を購入した人とこっそり共有するイメージで感想を書こうと思う。

髙石さんの文章は、いつ読んでも読みやすい、と思う。

普段はWebでモノを読むことが多い私からすると、髙石さんの文章はいつも抜群に読みやすくて本当に驚く。

一般的にWebで掲載される文章は、いわゆるめちゃくちゃ雑なコピペ&「いかがでしたか」という悪名高いアフィブログから、コンテンツに手を入れて企画として書かれているオウンドメディア系の記事や、玉石混交ではあるものの比較的プロやセミプロの多いクリエイターの集まるnoteや、WordpressAmebaブログやライブドアブログはてなブログの一部の収益化を目指すブログや、普通の人が書いているふつうの日記やブログなどがある。

Twitterも一部文章になってるものはあるけど、長文を書くにはあまり向かない。

インターネットはスピードが重視される媒体という特性もあって、ある程度手が入って読みやすいようになっているコンテンツもあれば、1発書きでそのままアップされているものもある。

長くWebでモノを読んでいると、だいたい手が入っているコンテンツとそうでないコンテンツくらいはわかるようになってくる。

時々インターネットに疲れて本に戻ると、編集された本って凄いな、何はどうあれめちゃくちゃ読みやすくて、編集者ってすごいと思う。*3

髙石さんの文章を読んでいると、引っ掛かることなくすらすらと読むことができてストレスがない。

自分がブログで書く文章なんかは一発書きをすることが多いので、後から読み返すと誤字脱字や「てにおは」がおかしくなっているところ、重複など結構凡ミスがあって見つけるたびに修正をするのだけど、まずもってそういうのがない。*4

媒体が紙であってもWebであっても、変わらずになめらかで読みやすい文章なのだ。

それはたぶん活字の文化を大切にされているからなのだろう、と勝手に思っているのだけど、丁寧に書かれているのがよくわかる。

 

 

 

さらっと展開していく読み心地の良さに反して、内容はホラーに近かった。

もし自分だったら、と考えれば到底冷静ではいらない。

誰にでも起こりうる可能性はあり、それが恐ろしく、残された傷の深さに考え込んでしまう。

世の中には困ったコミュニケーションをする人を意図せず惹きつけてしまうタイプがいると思っていて、自身のまわりにも少し思い当たりのある人がいる。

髙石さんもおそらくそのタイプなのだろう。

ひとの気持ちを想像できる人は、時として"わかってほしい"人が近づいてくることがある。

現代はサイコパスの方がよほど生きやすいんじゃないかと思うことも多いのだけど、一方で想像力を働かせられなくなったら人として如何なものかと思いとどまり、過度に寄り添いすぎないように気をつけつつ、どうにかやっていく方が人間らしいんじゃないかという考えに最後は落ち着く。

 

 

 

描かれていたひと夏の攻防は痛ましいけれど、担当している作家の先生たちがどの先生も個性的でその先生らしい寄り添い方をされていて、いい先生たちが髙石さんの近くにいてよかったな、と思った。

的確な対応策を次々と提案してくれる様子は、ほっとする描写だった。

自分もサウナには助けてもらったなと思うシーンは何度もあったけど、髙石さんにサウナがあってよかった、と思った。

 

誰からも攻撃を受ける心配がない。あらためてサウナの”閉じられた空間”の良さを実感する。ここは安全なシェルターだ。

 

ハードワーク 髙石智一

 

 

 

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流通センター前に咲いていた紫陽花。

紫陽花の季節がやってくると陰鬱な気分になるけど、花のみずみずしさに癒される。

誕生月の季節の花ということもあり、紫陽花は好きな花だ。

 


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文フリ36の看板。

会場のブースを回ってみると、企業としてはてなブログがブースを出していたり、著名なライター陣が各自本を出していたりして、会場を眺めるのは面白かった。

はてブ(ブックマーク)で1度は見かけたことのあるライターさんも多く参加していた。

 


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購入した本と、いただいてきたブースの張り紙。

装丁も中の本もオシャレな作りだ!

 

 

 

 

*1:1人じゃなかなか挨拶できない性分なのでこの時にヨモギダさんに引き合わせてもらえてありがたかったです。

*2:同人誌やZINEのような小規模の範囲に流通するタイプの本

*3:一部そう思えない編集者もいるにはいるけど、概ね編集という仕事に敬意を持っている。

*4:最近はドキュメントのオートチェック機能を使うこともあって、2回に分けて清書してるときもあります。